鍼灸刺激が、人の体にどのように作用しているか科学的な研究が進められています。近年、科学的にわかってきていることについてご紹介します。
鍼鎮痛
(1)内因性痛覚抑制機構
内因性痛覚抑制機構では、鍼刺激をすると、脳からのβエンドルフィン(視床下部・脳下垂体)、ダイノルフィン(視床下部・脳下垂体)、エンケファリン(大脳基底核を構成している線条体の尾状核や脊髄後角)などの内因性オピオイドが関与して鍼鎮痛を起こしているということがわかってきています。
(2)末梢性鎮痛機序
◉アデノシン受容体
末梢性鎮痛機序では、一次求心性感覚神経の末梢側には、オピオイド受容体が発現しており、鍼刺激によって、T細胞やB細胞のような免疫細胞からβエンドルフィンやダイノルフィンが放出されて鎮痛が起こっていることがわかってきています。
また、鍼刺激によって損傷した組織からATP(アデノシン三リン酸)が漏出し、アデノシンに分解された後、神経終末のA1(エーワン)受容体を介して鎮痛を引き起こしていることが明らかになっています。
(3)下行性痛覚抑制系
◉セロトニン系
◉ノルアドレナリン系
セロトニンやノルアドレナリン作用による下行性痛覚抑制系の賦活によって鎮痛が働くということも考えられています。
鍼灸の生体調節機能
(1)自律神経系
◉脳・内臓・筋などの臓器血流増加
自律神経系では、下腿にある足三里穴に鍼をすると、副交感神経が興奮し、胃や遠位結腸運動が亢進されますが、腹部(中脘穴・梁門穴・天枢穴)に鍼をすると、交感神経が興奮し、胃機能が抑制されることがわかっています。
また、脳や内臓・筋などの臓器血流増加の作用があります。
(2)内分泌系
内分泌系においては、鍼をすると、オキシトシンが増加することが報告されていますが、オキシトシンは、授乳や分娩だけでなく鎮痛や内臓機能の調整、さらには、社会的行動や対人関係、記憶、感情や心理にも影響を与えているのではないかと考えられています。
(3)免疫系
◉サイトカインの増加
免疫系では、NK細胞の増加・活性の上昇、サイトカインの増加が報告されています。
(4)情動系
◉抗酸化作用
◉抗ストレス作用
情動系では、抗酸化作用、抗ストレス作用の報告がされています。
鍼灸研究でわかってきていることについて、一部ご紹介しました。まだ、未開発な部分も多くありますので、今後ますます、さまざまな機序の解明が期待されます。